福島大学では、小中学校教職員向けの「現職教職員研修講座」を毎年開催しています。今年も8月9・10日の2日間に渡り開催された「学校事務職員研修講座」について概要をお伝えしたいと思います。まずは8月9日(木)・第1日目の様子から。
なお、8月2日に開催された「学校事務職員入門講座」は、地区夏季研修会と重なってしまい、残念ながら参加できませんでした。
■学校事務職員の研修・実践について考える
講師:福島大学総合教育研究センター・宮前貢氏
宮前先生は、多くの事務研究会などで指導助言者として招かれており、全事研や各県の取り組みから、学校事務職に関する様々な厳しい状況を危惧されています。そうした観点から研修・研究についてお話しされました。
「職」のあり方として共同実施でいいのか、少子化による学校の小規模化で遠ざかる全校配置、一般行政職として行われている研修の状況など、しっかり把握することが必要であると考えている。「事務職員は事務的な仕事をする人」という位置づけをどう変えるか、課題を抱え込んでいないか、管理職の理解と支援があるかなどを考えていかなければならない。
多岐にわたる任務と実践課題の多さから事務職員の仕事量がどんどん増えており、特に情報化への対応が求められるなど、その資質向上は重要である。だからこそ研究・研修の充実が必要である。
研究とは自らの抱える実践上の問題を解決することである。問題を特定しその所在を明確にし、解決への方策を考え実践し、成果を上げて発表することで、新たな課題を見つけ研究が積み上がる。一方研修は、学芸などを磨き高めることであり、様々な内容・方法があり自発的に学ぶことである。
学校事務職員の研修が難しいのは、一人職であるが故に自己の課題意識に関わる共通性を校内で共有できないところにあるからではないか。研修内容のレベルも何を基準にどこまで上げるのか、また事務研などでの研究実践を全校一斉にすすめようとすると、自己課題に直結しなくなってしまう。どのような方法で解決に向かって取り組み、研究成果の共有化をどうすすめるか、発表の場を広げることはできないか、他団体との連携・協力体制をどうするかなどについて再度確認する必要がある。校長や地教委担当者をどんどん指導助言者として依頼してみたり、積極的に一生懸命な姿を見せることも、学校事務を理解してもらう上では必要なことである。
今後も学校を取り巻く環境は変わっていくことが予想される。範囲を広げるのではなく焦点化して、最重要課題を明確にしながら専門職として深めていくことが大切になっている。個人や地区が抱える最大の課題を的確につかみ、どんな事務職員を目指すのか、一人職の良さと厳しさ(他人から干渉されない、寂しさ厳しさと表裏一体、でも積極的に取り組める)を活かして、小さなことでも確実に積み重ねていくことが重要である。
この講話で一番印象的な内容だったのは、自分の無知を知ることは、まだまだである自分を自覚し、学ぶことへの意味・動きを決定づけることである。人間は現状に満足しない存在であり、生きることについては創造的な存在である、というところです。定型的な仕事は経験を重ねるごとにスムーズに行えるようになりますが、そこでできている自分に満足せず、新たな課題を見つけ、さらに精進していくことが大切です。どんな事務職員になりたいのか、研修を積み重ね、他団体との連携・協力体制を密にすることで自分たちの「願い、夢」を伝えることは今後の研究・研修において重要です。常に課題意識を持って日々の仕事に取り組みたいと思います。
[AT]
■シンポジウム「これからの学校事務を展望する」
・パネリスト:
首都大学東京人文科学研究科教授 大田直子氏
大熊町教育委員会教育長 武内敏英氏
会津若松市立謹教小学校長 星 憲隆氏
大阪市立柏里小学校事務主幹 藤原義朗氏
・コーディネーター:
練馬区立大泉東小学校主査 浅川晃雄氏
午後の2コマ、約3時間のシンポジウムはとても濃い内容でした。スペースの関係もあり全ては紹介しきれませんので、発言をパネラーごとに簡単にまとめさせていただきました。ご了承ください。
浅川氏:7月末の全事研愛知大会に参加して、さまざまな社会情勢の変化も含め「大会の在り方についての危機感をひしひしと実感」したとのこと。分科会などもテーマとの関連性をもう少し考えるべき。ぜひ新しい学びの場を作る必要があると感じている。
藤原氏:昨年全事研で取り組んだ「全国学校財務調査」および校長意識調査等の実態を踏まえ、19年度は次の3点についての研究を推進。
(1)学校財務マネジメントカリキュラム開発
→ 機能的・効果的な財務運営の実現を目標に
(2)学校財務ガイドライン策定および提案等
→ 学校経営ビジョン実現に向けた学校裁量拡大のため
(3)学校運営に必要な経費の種類や額の研究
→ 自治体や学校の規模・諸条件による差異の整理から
自分の目標と学校の目標とをどのようにつなげていくか。一人職ではあるが同僚と協力し合って自分の立ち位置をはっきりさせていきたい。
星氏:校長昇格時の学校は事務職員配置なし。高校も経験したが事務長に任せておけばよかった。共同実施に興味はあるが、もう少しピンポイントで(未配置校などに)支援できる仕組みも必要ではないか。事務だけであれば外部委託もあり得る。学校経営参画を考えなければ身の置き場がなくなるだろう。教頭会・学校経営研究会に参画してはどうか。学校の中での発信・連携をさらに深めていく必要がある。カリキュラム経営の中核になっていけば、すばらしい学校ができてくると思う。校長会や県にもはたらきかけたい。
武内氏:人間の教育は人間にしかできない。OA機器やビデオ教材などに頼りすぎ。教頭になって事務職員の戦力に感心させられた。事務職員が教育課程にどのように関わるか・どのような課題があるか、大きな興味と期待がある。来年も同じ予算が付くとは考えない。何をどのようにという年次的な結果と計画が必須。教育委員会職員は教育の専門家ではない。じっくりと話し合いながらすすめることが大切。事務・法令・数字に明るい、視点が違う(幅広い)、そうした事務職員の特性を生かす。いったい誰のためか、自分?教員?お金のため?、子どものためでなければならないという視点でのチェックを。
大田氏:もともと自分(事務職)は誰のためにいるのか、ということを常に出発点にして考えていく必要がある。制度が変わる中、公教育の中における事務職員の在り方を明確にしていくべき。既得権などばかりでやっていける時代ではない。単なる行政職員ではなく「教育行政職員」である。全てが現場任せ、知らなかったでは済まされない時代。インターネット上にあるさまざまな改善案を踏まえながら、教科書や指導資料を読み、教育計画を知る必要がある。
それぞれの立場・経験から学校事務との関わりなどを踏まえた今後の展望などについての意見発表があり、またフロアとの熱心な意見交換もすすめられ、あっという間の3時間でした。
最後にコーディネーターの浅川氏から、こうした貴重な研修の機会をこれで終わらせないで、継続的に勉強する会としていきませんか?という提案がありました。不安ばかりが募る昨今、たくさんの応援団がいることを実感し、とても心強いものを感じたシンポジウムでした。田村の活動にも大いに活かしていきたいものです。
[HH]
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