学校の福祉的機能と公的扶助
講師:会津大学短期大学部社会福祉学科長 教授 下 村 幸 仁 様
今回の「子どもと生活保障」の研修は、就学援助制度の所得基準が生活保護基準を基にして計算されることから、生活保護制度の概要や最低生活費の計算方法を知り、その金額を具体的に知ることを目的に、会津大学短期大学部社会福祉学科教授の下村幸仁先生を講師に研修を行いました。
内容は貧困の現状認識からはじまり、生活保護の概要と現状、利用の仕方、最低生活費の計算方法など分かりやすく説明していただきました。特にイス取りゲームの例えや、貧困に陥る階段の説明、最低生活費計算のためのエクセルテンプレートの活用などとても分かりやすく印象に残りました。
参加者からは以下のような感想が寄せられました。
・学校の意識をかえていけるような働きかけをしていきたい。
・お金の問題をもっと深く話し合って子どもたちの日々の生活について考えたい。
・意欲や希望を持つ子どもの成長・発達を保障することが本当に大切だと思った。
・保護者負担の軽減を提案したい。
・日本の貧困率が想像以上に高くてびっくりした。
・就学援助について所得証明だけでは判断できない部分があり、見直しや働きかけを
したい。
・普段勉強することができない大切なことを学べた。
・「生活保護は権利であり生活再建のための手段である」という言葉が心に残った。
・集金未納の背景に家庭の貧困がないかを考える必要があると思った。
・就学援助申請受付時期だったのでタイムリーで良かった。
・生活保護について今後は「子どもに希望を与えるもの」という角度で見ることが
できそうです。
・我々が学習権保障の観点で向き合っていくことの重要性を教えられた。
・もっと就学援助制度を保護者に理解される取り組みが必要だと思った。
お話の中で「スティグマ」という言葉を使っていました。スティグマとは汚名の烙印を押されるといった意味があり、心身の障害や貧困による社会的な不利益や差別、屈辱感や劣等感のことで、特に地方の保守的なところほど顕著なのではないかと思います。努力は大事ですが個人の努力ではどうにもならない状態が貧困だと思います。貧困から抜け出すための第一歩が生活保護で、それは憲法25条が定めている権利だということもわかりました。
学校事務職員としては子どもの家庭の貧困に目を向け、保護者と対話することを大切にしなければならないと思いました。子どもの貧困は見ようとしなければ見えないと言われています。払えるのに払わないのか貧しくて払えないのかは、我々から見えるほんの一部のことでは判断できません。就学援助の仕事は保護者とコミュニケーションを取る中で相互理解と合意が得られ、そのケースにおける最良の福祉サービスを考えるという社会福祉労働の一面があり、就学援助費が世帯の年収による自動給付にならない限りは定型化できない大事な仕事であると思いました。
先日最後の給食費口座振替を行い、その時点で給食費未納額は約50万円となりました。3分の1は準要保護家庭なので支給日に支払ってもらえます。3分の1は1〜2ヶ月未納なので通知を出せばすぐに入金されます。残りの3ヶ月以上の未納家庭には保護者に電話して直接話しました。つながらないときには職場に電話をしました。どの家庭も「もうちょっと待って欲しい」という反応で悪質な家庭はありません。「もし生活が大変なようでしたら就学援助を申請してみたらいかがですか」と申し上げ、家族構成を聞き、おおよその認定基準額を伝えました。ちょうど次年度の申請受付時期であり全児童に就学援助申請の案内文書を配布していたのですが、読んでないとか該当しないと思ったという事なので再度配布しました。
数日後お話しした5件の内2件から申請書が届きました。1件は持参だったので事務室でお話しを聞きながら書類を書いてもらいました。電話ではとりあえず所得証明書を提出して下さいと伝えたのですが、持ってきたのは非課税証明書だったので役場の窓口の方が気を利かせてそちらを出してくれたのだと思いました。非課税なので要件を満たしており即認定です。ちなみに両親と子ども4人で19年の年収は夫が200万円、妻が50万円で昨年もほとんど同じだそうです。生活保護申請を促しましたが、「生活保護はちょっと」(スティグマ)と言うので、今年度分については教育委員会に相談することにして次年度の就学援助申請書だけ書いてもらいました。昨年度から全家庭に周知しているのに「知らなかった、該当しないと思った」という言葉を聞いて文書を配るだけでは足りないと感じました。もう1件の方も両親と子ども4人の家庭で年収が約300万円で同じく非課税でした。
ケイタイを持っているとか、ブランドのバッグを持っている、犬を飼っているなどの条件だけから家庭の状況は判断できません。派遣社員であればケイタイがなければ次の仕事の連絡が来ないだろうし、ブランドのバッグは質に出せない思い出の品かもしれません。犬だって貧しくなったからという理由で捨てられたら保健所が悲鳴を上げることになるでしょう。保護者の一面だけで決めつけず、給食だけが頼りかもしれない子どもに給食を食べさせることを第一に考え、ウソかもしれないと思っても保護者の言葉を信じて対応しなければ何もはじまらないと思います。事務室はお金を取り立てるところでなく、保護者とお金の相談をするところなのだと思いました。
【研修委員・H.S】
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