日が短くなりました。この後あっという間に暗くなっていきます。
そんな夕方の駐車場、カミさんが買い物をしている間、車の中で待っていました。窓を開け、FMラジオをつけたままiPodの音楽を聴きながら、隣に止まってる車の方に顔を向けてボーッといたわけです。
やがて隣の車の持ち主・おばさんが帰ってきました。おばさんは自分が気にしているところをしげしげと見られていたのだと思ったのでしょう。どこのどなたか存じませんが、いきなりこう切り出しました。
「この傷、かなり目立ちますよね‥‥」
「は?あぁ別に気にもしませんでしたが‥‥」
おばさんはどこかの駅の駐車場で、ぐるっと一回りガリガリと傷を付けられて、すげくショックなのであると、しゃがみ込んでまでその心の内を訴えるのであります。
「いやいや、はぁそれはとんだ災難で‥‥」
「ペンみたいなヤツで補修するのを買ってきて塗ったら消えますか?」
「程度にもよりますけどこういう傷の場合はかえって目立つんじゃないですか?」
「ですよね。実はここ自分で塗ったんですが逆に目立っちゃって‥‥」
なるほどけっこう目立っていました。ちょっと否定的なことを言ったからスイッチが入ってしまったのか、おばさんの話は修理費用、車輌保険、愛車への思い、犯人への怒り、それが止めどなく続くのでした。何度も何度も同じような話を繰り返すわけです。
「7万もかかるって言うんですよ。高いと思いません?」
「いや、ドア1枚3万とかかかりますから両サイドと後ろとって考えるとそれくらいはかかるでしょうねぇ」
あ、また否定しちゃった‥‥。
「でも車輌保険入ってるから言ったら、免責とか何とかで自己負担だって言うんですよ。何のために保険入ってるんでしょうね」
「まぁ何とも言えませんが‥‥」
「あぁ犯人見つかりませんかねぇ。警察に言っても無理でしょう?」
「まぁどっちも無理でしょうね。仮に私が犯人で偶然この場にいたとしても『私が犯人です』とは言いませんから、たぶん見つかることはないと思いますよ」
「ですよね‥‥」
全部吐き出したのかどうか、やがて落ち着きを取り戻した様子でした。
「あれ?誰かを待ってるんですか?」
「はぁカミさんが買い物してるんで‥‥」
「あぁすみませんでした。はぁ‥‥」
とため息をひとつついて、ずいぶん暗くなった街に消えていきました。
いったい何だったのかわかりませんが、誰かに言いたかったんでしょうね。政治もそうですが、こういういたずらにも困った世の中です。昔ならたいへんな犯罪でしたが、いや今だってたいへんな犯罪ですが、この程度のことは泣き寝入りするしかない世の中。ニッポンはどうなっちゃうんだろう‥‥。
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