土曜日、オレは和久屋の前に立っていた。お昼頃には家に帰るつもりで歩き始めたんだけど、いつものようにあちこち写真など撮っていたらもう午後1時頃になっていた。
うなぎと言えば和久屋だ。三春では常識だ。その和久屋も市街地開発で建て直してからずいぶん経つが、そういえば新しい店になってからは入ったことがない。もっとも、うなぎが好物でよく食べる‥‥わけではなくて、以前の職場のときに小宴会でたまに利用したくらいで、たぶんまともにうなぎを食べに行ったりしたことはなかったな。その頃はいかにも老舗的なたたずまいがあって、正直なところ味はどうだったのかわからないんだけれど、店の様子からしてとにかくうなぎは和久屋と決まっていたのだった。
当時は煙がもんもんと店の前に吐き出され、道行く人は良くも悪くも迷惑だったりしたんだけれど、今は屋根と屋根との間あたりから出ているのだ。身体に染み込んでしまうのではないかとさえ思うほど強烈な臭いだったあの煙も、今はすっかりほのかな香りになってしまった。
ほのかとは言え、午後1時の空きっ腹には充分すぎるほどの刺激である。さっき自販機でお茶を買って120円使って残りは100円しかない。やむを得ない。今日は土曜だけどオレぜったい土用の丑の日に食うんだと、食ってやるから待ってろよと、もう一度深呼吸して写真を撮って家路を急いだ‥‥。
さて、今日が決戦の日だ。どうせ食うんだから特上にしようと、夕方6時半に取りに行きますからと、オレはこの数日いろいろ考えてきたとおりにオーダーすべく電話をしたんだけれど、「今日は予約だけでいっぱいです」とあっさり断られてしまった。
あぁそうなんですか‥‥。意気揚々とした最初の声と比べたら明らかにトーンダウンしちまってるオレの声に、店の方も心配してか申し訳なさそうにこう付け加えた。「明日もやってますよ」と‥‥。
明日じゃ意味がないのさ‥‥ふっ‥‥。などと気取ってみるが、オレはもう何が何でも本日・土用の丑の日にうなぎを食わなければならないのだと、そう思い込んでしまっているのだからどうしようもない。よし、ならばヨークベニマルでもいい、きっと本場静岡産の極上品があるはずだとかあちゃんに泣いてせがむ始末である。
思えば通ずるのだ。おかげさまでその静岡産うなぎに巡り会うことができ、かあちゃんは急遽ご飯を炊いてくれ、あんまりでかいから短冊状に切ってまぶしてくれ、オレは見事な照りなうなぎに狂喜し、めちゃくちゃスタミナをつけることができた(ような気がする)。すっかり気が動転してるから、大きさのほどなどは事実と異なっているかもしれない。オレはそう感じたのだ。まぁとにかくかあちゃんありがと‥‥。
ま実際んとこ、うなぎは土用の丑の日にしか食わないオレ。その程度なのに何をムキになってるんだろうオレ‥‥と思わないでもないけれど、そんな日だからこそ食べようと思うのであるから、やっぱ土用の丑の日はうなぎでなければならないのだし、翌日ではぜーんぜん意味がないのだ。
とまぁ長話になってしまったが、オレはそうなんだけど、ところで皆さんの土用の丑の日ってどうよ。
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